Chapter 98 of 122
正法眼藏第一 出家功徳 · 4
我今欲出家(我れ今出家せんと欲ふ)、
幸願哀愍故(幸願はくは哀愍したまふが故に)。
父母固止之。遂終日不食。乃許其在家出家、號僧伽難提、復命沙門禪利多、爲之師。積十九載、未甞退倦。尊者毎自念言、身居王宮、胡爲出家(父母固く之れを止む。遂に終日食はず。乃ち其の家に在りて出家せんことを許す。僧伽難提と號け、復た沙門禪利多に命じて之が師たらしむ。十九載を積むに、未だ甞て退倦せず。尊者毎に自ら念言すらく、身、王宮に居す、胡んぞ出家たらん)。
一夕天光下屬、見一路坦平。不覺徐行約十里許、至大岩前有石窟焉。乃燕寂于中。父既失子、卽擯禪利多、出國訪尋其子、不知所在。經十年、尊者得法授記已、行化至摩提國(一夕、天光下り屬し、一路坦平なるを見る。覺えず徐ろに行くこと約十里許りにして、大岩の前に至るに石窟有り焉。乃ち中に燕寂せり。父、既に子を失ひ、卽ち禪利多を擯し、國を出でて其の子を訪尋ねしむるも、所在を知らず。十年を經て、尊者、得法授記し已りて、行化して摩提國に至る)。
在家出家の稱、このときはじめてきこゆ。ただし宿善のたすくるところ、天光のなかに坦路をえたり。つひに王宮をいでて石窟にいたる。まことに勝躅なり。世樂をいとひ俗塵をうれふるは聖者なり。五欲をしたひ出離をわするるは凡愚なり。代宗、肅宗、しきりに僧徒にちかづけりといへども、なほ王位をむさぼりていまだなげすてず。盧居士はすでに親を辭して祖となる、出家の功徳なり。龐居士はたからをすててちりをすてず、至愚なりといふべし。盧公の道力と龐公が稽古と、比類にたらず。あきらかなるはかならず出家す、くらきは家にをはる、黒業の因緣なり。
南嶽懷讓禪師、一日自歎曰、夫出家者、爲無生法、天上人間、無有勝者(南嶽懷讓禪師、一日自ら歎じて曰く、夫れ出家は、無生法の爲にす、天上人間、勝る者有ること無し)。
いはく、無生法とは如來の正法なり、このゆゑに天上人間にすぐれたり。天上といふは、欲界に六天あり、色界に十八天あり、無色界に四種、ともに出家の道におよぶことなし。
盤山寶積禪師曰、禪徳、可中學道、似地擎山、不知山之孤峻。如石含玉、不知玉之無瑕。若如是者、是名出家(盤山寶積禪師曰く、禪徳、可中學道は、地の山を擎げて、山の孤峻を知らざるに似たり。石の玉を含んで、玉の瑕無きを知らざるが如し。若し是の如くならば、是れを出家と名づく)。
佛祖の正法かならずしも知不知にかかはれず、出家は佛祖の正法なるがゆゑに、その功徳あきらかなり。
鎭州臨濟院義玄禪師曰、夫出家者、須辨得平常眞正見解、辨佛辨魔、辨眞辨僞、辨凡辨聖。若如是辨得、名眞出家。若魔佛不辨、正是出一家入一家、喚作造業衆生。未得名爲眞正出家(鎭州臨濟院義玄禪師曰く、夫れ出家は、須らく平常眞正の見解を辨得し、辨佛辨魔、辨眞辨僞、辨凡辨聖すべし。若し是の如く辨得せば、眞の出家と名づく。若し魔佛辨ぜざれば、正に是れ一家を出でて一家に入るなり、喚んで造業の衆生と作す。未だ名づけて眞正の出家と爲すこと得ず)。
いはゆる平常眞正見解といふは、深信因果、深信三寶等なり。辨佛といふは、ほとけの因中果上の功徳を念ずることあきらかなるなり。眞僞凡聖をあきらかに辨肯するなり。もし魔佛をあきらめざれば、學道を沮壞し、學道を退轉するなり。魔事を覺知してその事にしたがはざれば、辨道不退なり。これを眞正出家の法とす。いたづらに魔事を佛法とおもふものおほし、近世の非なり。學者、はやく魔をしり佛をあきらめ、修證すべし。
如來般涅槃時、迦葉菩薩、白佛言、世尊、如來具足知諸根力、定知善星當斷善根。以何因緣、聽其出家(如來般涅槃したまひし時、迦葉菩薩、佛に白して言さく、世尊、如來は諸の根を知る力を具足したまふ、定んで善星當に善根を斷ずべきを知りたまひしならん。何の因緣を以てか、其の出家を聽したまひしや)。
佛言、善男子、我於往昔、初出家時、吾弟難陀、從弟阿難、調達多、子羅睺羅、如是等輩、皆悉隨我出家修道。我若不聽善星出家、其人次當王得紹王位、其力自在、當壞佛法。以是因緣、我便聽其出家修道(佛言はく、善男子、我れ往昔に於て、初めて出家せし時、吾が弟難陀、從弟阿難、調達多、子羅睺羅、是の如き等の輩、皆な悉く我に隨つて出家修道せり。我れ若し善星が出家を聽さずは、其の人次に當に王として王位を紹ぐことを得て、其の力自在にして、當に佛法を壞るべし。是の因緣を以て、我れ便ち其の出家修道を聽しき)。
善男子、善星比丘、若不出家、亦斷善根、於無量世、都無利益。令出家已、雖斷善根、能受持戒、供養恭敬耆舊、長宿、有徳之人、修習初禪乃至四禪。是名善因。如是善因、能生善法。善法既生、能修習道。既修習道、當得阿耨多羅三藐三菩提。是故我聽善星出家。善男子、若我不聽善星比丘出家受戒、則不得稱我爲如來具足十力(善男子、善星比丘若し出家せざるも、亦た善根を斷じ、無量世に於て都て利益無けん。出家せしめ已りぬれば、善根を斷ずと雖も、能く戒を受持し、耆舊、長宿、有徳の人を供養し恭敬し、初禪乃至四禪を修習す。是れを善因と名づく。是の如くの善因は、能く善法を生ず。善法既に生じぬれば、能く道を修習す。既に道を修習しぬれば、當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。是の故に我れ善星が出家を聽しき。善男子、若し我れ善星比丘が出家受戒を聽さずは、則ち我れを稱して如來具足十力と爲すこと得じ)。
善男子、佛觀衆生、具足善法及不善法。是人雖具如是二法、不久能斷一切善根、具不善根。何以故、如是衆生、不親善友、不聽正法、不善思惟、不如法行。以是因緣、能斷善根、具不善根(善男子、佛、衆生を觀じたまふに、善法と及び不善法とを具足す。是の人是の如くの二法を具すと雖も、久しからずして能く一切善根を斷じて不善根を具せん。何を以ての故に、是の如くの衆生は、善友に親しまず、正法を聽かず、善思惟せず、如法に行せず。是の因緣を以て、能く善根を斷じて不善根を具す)。
しるべし、如來世尊、あきらかに衆生の斷善根となるべきをしらせたまふといへども、善因をさづくるとして出家をゆるさせたまふ、大慈大悲なり。斷善根となること、善友にちかづかず、正法をきかず、善思惟せず、如法に行ぜざるによれり。いま學者、かならず善友に親近すべし、善友とは、諸佛ましますととくなり、罪福ありとをしふるなり。因果を撥無せざるを善友とし、善知識とす。この人の所説、これ正法なり。この道理を思惟する、善思惟なり。かくのごとく行ずる、如法行なるべし。
しかあればすなはち、衆生は親疎をえらばず、ただ出家受戒をすすむべし。のちの退不退をかへりみざれ、修不修をおそるることなかれ。これまさに釋尊の正法なるべし。
佛告比丘、當知、閻羅王、便作是説、我當何日脱此苦難、於人中生、以得人身、便得出家、剃除鬚髪、著三法衣、出家學道。閻羅王尚作是念。何況汝等、今得人身、得作沙門。是故諸比丘、當念行身口意行、無令有缺。當滅五結、修行五根。如是諸比丘、當作是學(佛、比丘に告げたまはく、當に知るべし、閻羅王便ち是の説を作さく、我れ當に何れの日にか此の苦難を脱し、人中に生じ、以て人身を得て、便ち出家し、剃除鬚髪し、三法衣を著して、出家學道することを得べきと。閻羅王すら尚ほ是の念を作す。何に況んや汝等、今、人身を得て沙門と作ることを得るをや。是の故に諸比丘、當に身口意の行を行じて缺有らしむること無けんと念ずべし。當に五結を滅し、五根を修行すべし。是の如く諸比丘、當に是の學を作すべし)。
爾時諸比丘、聞佛所説、歡喜奉行(爾の時に諸比丘、佛の所説を聞いて、歡喜奉行しき)。
あきらかにしりぬ、たとひ閻羅王なりといへども、人中の生をこひねがふことかくのごとし。すでにむまれたる人、いそぎ剃除鬚髪し、著三法衣して、學佛道すべし。これ餘趣にすぐれたる人中の功徳なり。しかあるを、人間にむまれながら、いたづらに官途世路を貪求し、むなしく國王大臣のつかはしめとして、一生を夢幻にめぐらし、後世は黒闇におもむき、いまだたのむところなきは至愚なり。すでにうけがたき人身をうけたるのみにあらず、あひがたき佛法にあひたてまつれり。いそぎ諸緣を抛捨し、すみやかに出家學道すべし。國王、大臣、妻子、眷屬は、ところごとにかならずあふ、佛法は優曇花のごとくにしてあひがたし。おほよそ無常たちまちにいたるときは、國王、大臣、親昵、從僕、妻子、珍寶たすくるなし、ただひとり黄泉におもむくのみなり。おのれにしたがひゆくは、ただこれ善惡業等のみなり。人身を失せんとき、人身ををしむこころふかかるべし。人身をたもてるとき、はやく出家すべし、まさにこれ三世の諸佛の正法なるべし。
その出家行法に四種あり。いはゆる四依なり。
一、盡形壽樹下坐。
二、盡形壽著糞掃衣。
三、盡形壽乞食。
四、盡形壽有病服陳棄藥。
共行此法、方名出家、方名爲僧。若不行此、不名爲僧。是故名出家行法(共に此の法を行ぜば、方に出家と名づけ、方に名づけて僧と爲す。若し此を行ぜずは、名づけて僧と爲さず。是の故に出家行法と名づく)。
いま西天東地、佛祖正傳するところ、これ出家行法なり。一生不離叢林なればすなはちこの四依の行法そなはれり、これを行四衣と稱ず。これに違して五依を建立せん、しるべし、邪法なり。たれか信受せん、たれか忍聽せん。佛祖正傳するところ、これ正法なり。これによりて出家する、人間最上最尊の慶幸なり。このゆゑに、西天竺國にすなはち難陀、阿難、調達、阿那律、摩訶男、拔提、ともにこれ師子頰王のむまご、刹利種姓のもとも尊貴なるなり、はやく出家せり。後代の勝躅なるべし。いま刹利にあらざらんともがら、そのみ、をしむべからず。王子にあらざらんともがら、なにのをしむところかあらん。閻浮提最第一の尊貴より、三界最第一の尊貴に歸するはすなはち出家なり。自餘の諸小國王、諸離車衆、いたづらにをしむべからざるををしみ、ほこるべからざるにほこり、とどまるべからざるにとどまりて出家せざらん、たれかつたなしとせざらん、たれか至愚なりとせざらん。
羅睺羅尊者は菩薩の子なり、淨飯王のむまごなり。帝位をゆづらんとす。しかあれども、世尊あながちに出家せしめまします。しるべし、出家の法最尊なりと。密行第一の弟子として、いまにいたりていまだ涅槃にいりましまさず、衆生の福田として世間に現住しまします。
西天傳佛正法眼藏の祖師のなかに、王子の出家せるしげし。いま震旦の初祖、これ香至王第三皇子なり。王位をおもくせず、正法を傳持せり。出家の最尊なる、あきらかにしりぬべし。これらにならぶるにおよばざる身をもちながら、出家しつべきにおきていそがざらん、いかならん明日をかまつべき。出息、入息をまたず。いそぎ出家せん、それかしこかるべし。またしるべし、出家受戒の師、その恩徳、すなはち父母にひとしかるべし。
禪苑淸規第一云、三世諸佛、皆曰出家成道。西天二十八祖、唐土六祖、傳佛心印、盡是沙門。蓋以嚴淨毘尼、方能洪範三界。然則參禪問道、戒律爲先。既非離過防非、何以成佛作祖(禪苑淸規第一に云く、三世諸佛、皆な出家成道と曰ふ。西天二十八祖、唐土六祖、佛心印を傳ふる、盡く是れ沙門なり。蓋し以て毘尼を嚴淨して、方に能く三界に洪範たり。然あれば則ち參禪問道は戒律爲先なり。既に過を離れ非を防ぐに非ずは、何を以てか成佛作祖せん)。
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