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Chapter 30 of 122

正法眼藏第十六 行持 下 · 5

趙提擧は嘉定聖主の胤孫なり。知明州軍州事、管内勸農使なり。先師を請じて州府につきて陞座せしむるに、銀子一萬鋌を布施す。

先師、陞座了に、提擧にむかうて謝していはく、某甲依例出山陞座、開演正法眼藏涅槃妙心、謹以薦福先公冥府。只是銀子、不敢拜領。僧家不要這般物子。千萬賜恩、依舊拜還(某甲例に依つて出山して陞座し、正法眼藏涅槃妙心を開演す。謹んで以て先公の冥府に薦福す。只だ是の銀子、敢へて拜領せじ。僧家、這般の物子を要せず。千萬賜恩、舊に依つて拜還せん)。

提擧いはく、和尚、下官悉以皇帝陛下親族、到處且貴、寶貝見多。今以先父冥福之日、欲資冥府。和尚如何不納。今日多幸、大慈大悲、卒留小襯(和尚、下官悉く皇帝陛下の親族なるを以て、到る處に且つ貴なり、寶貝見に多し。今、先父の冥福の日を以て、冥府に資せんと欲ふ。和尚如何不納めたまはざる。今日多幸、大慈大悲をもて、小襯を卒留したまへ)。

先師曰、提擧台命且嚴、不敢遜謝。只有道理、某甲陞座説法、提擧聰聽得否(提擧の台命且つ嚴なり、敢へて遜謝せず。只し道理有り、某甲陞座説法す、提擧聰かに聽得すや否や)。

提擧曰、下官只聽歡喜(下官只だ聽いて歡喜す)。

先師いはく、提擧聰明、照鑑山語、不勝皇恐。更望台臨、鈞候萬福。山僧陞座時、説得甚麼法。試道看。若道得、拜領銀子一萬鋌、若道不得、便府使收銀子(提擧聰明にして、山語を照鑑す、皇恐に勝へず。更に望むらくは台臨、鈞候萬福。山僧陞座の時、甚麼の法をか説得する。試道看。若し道ひ得ば、銀子一萬鋌を拜領せん。若し道ひ得ずは、便ち府使銀子を收めよ)。

提擧起向先師曰、卽辰伏惟、和尚法候、動止萬福。

先師いはく、這箇是擧來底、那箇是聽得底(這箇は是れ擧し來る底、那箇か是れ聽得底なる)。

提擧擬議。

先師いはく、先公冥福圓成、襯施且待先公台判(先公冥福圓成なり、襯施は且く先公の台判を待つべし)。

かくのごとくいひて、すなはち請暇するに、提擧いはく、未恨不領、且喜見師(未だ不領なるをば恨みず、且喜ぶ師を見ることを)。

かくのごとくてひて、先師をおくる。浙東浙西の道俗、おほく讃歎す。このこと、平侍者が日録にあり。

平侍者いはく、這老和尚、不可得人。那裏容易得見(這の老和尚は、不可得人なり。那裏にか容易く見ることを得ん)。

たれか諸方にうけざる人あらん、一萬鋌の銀子。ふるき人のいはく、金銀珠玉、これをみんこと糞土のごとくみるべし。たとひ金銀のごとくみるとも、不受ならんは衲子の風なり。先師にこの事あり、餘人にこのことなし。

先師つねにいはく、三百年よりこのかた、わがごとくなる知識いまだいでず。諸人審細に辨道功夫すべし。

先師の會に、西蜀の綿州人にて、道昇とてありしは道家流なり。徒儻五人、ともにちかうていはく、われら一生に佛祖の大道を辨取すべし。さらに郷土にかへるべからず。

先師ことに隨喜して、經行道業ともに衆僧と一如ならしむ。その排列のときは比丘尼のしもに排立す、奇代の勝躅なり。

又、福州の僧、その名善如、ちかひていはく、善如平生さらに一歩をみなみにむかひてうつすべからず。もはら佛祖の大道を參ずへし。

先師の會に、かくのごとくのたぐひあまたあり。まのあたりみしところなり。餘師のところになしといへども、大宋國の僧宗の行持なり。われらにこの心操なし、かなしむべし。佛法にあふときなほしかあり、佛法にあはざらんときの身心、はぢてもあまりあり。

しづかにおもふべし、一生いくばくにあらず、佛祖の語句、たとひ三三兩兩なりとも、道得せんは佛祖を道得せるならん。ゆゑはいかん。佛祖は身心如一なるがゆゑに、一句兩句、みな佛祖のあたたかなる身心なり。かの身心きたりてわが身心を道得す。正當道取時、これ道得きたりてわが身心を道取するなり。此生道取累生身なるべし。かるがゆゑに、ほとけとなり祖となるに、佛をこゑ祖をこゆるなり。三三兩兩の行持の句、それかくのごとし。いたづらなる聲色の名利に馳騁することなかれ。馳騁せざれば、佛祖單傳の行持なるべし。すすむらくは大隱小隱、一箇半箇なりとも、萬事萬緣をなげすてて、行持を佛祖に行持すべし。

佛祖行持

仁治三年壬寅四月五日書于觀音導利興聖寶林寺

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正法眼藏第十六 行持 下 · 5 · Shōbōgenzō (Treasury of the True Dharma Eye) — Dōgen · The Conscious Library